ニッチなターゲットもデータでユーザー理解

 全国に店舗を展開する、アイウエアブランドのJINSは、国内最大級のメガネ通販サイトも合わせて運営しています。JINSオンラインショップのメインユーザー層は30~40代、やや男性が多いのですが、手軽に買える価格と豊富なデザインで、老若男女問わずに愛用されるブランドです。ネットではメインユーザー層だけでなく、様々な世代の消費者へアプローチするため、多様なコラボレーション企画を展開しています。中でも特徴的なのは、「JINS PAINT」というメガネを自由にデザインできるサービスを活用した、アニメや漫画のキャラクターとのコラボレーション。色柄を組み合わせてカスタマイズし、自分だけのメガネやサングラスを作ることができます。ユーザーはメガネにペイントする感覚で、柄やスタンプを組み合わせ、オンラインで簡単にカスタマイズデザインを作ることができるのです。

コラボ企画では、こうしたオリジナルメガネだけでなく、鉄道の新型車両の素材を使用したメガネ等、テーマ毎にターゲットユーザーを設定。ネット上でも特定のアニメキャラのファンや、鉄道ファンなど、ニッチなターゲットに上手くアプローチする必要があるのですが、単純に性別や年代などのデモグラフィックだけではユーザーを特定できず、また従来のCookieベースのオーディエンスターゲティングでよく用いられる、興味関心カテゴリだけでは「漫画・アニメ」などセグメントが広すぎます。アニメとのコラボでも、タイトルごとに各ターゲットを判別しながらリーチしなければならない難しさがありました。

 そこで、推測だけでターゲティングを決めることをせず、データからターゲットユーザーの仮説を明らかにし、その人たちの実際のWeb行動ログを解析してユーザー理解を深め、広告配信先の選定やクリエイティブに活かすという、データドリブンなPDCAをまわすことに。Web行動ログは自社保有アクセス解析ログだけでは、ターゲットユーザーが普段、自社以外にどのようなサイトをよく見ているかまではわからないため、ヴァリューズが保有するWeb行動ログデータが用いられることになりました。

Web閲覧履歴からターゲットに特徴的なメディアを抽出

 具体的に、ターゲットユーザーの分析データを、どのように広告に活かしたのかを見ていきましょう。たとえば、鉄道会社とのコラボ企画。新型車両の車体に使用される、丈夫なステンレス素材をフレームに使用したモデルは、価格が2万円(税込)と、JINSの通常のプライスラインよりもやや高価ですが、数量限定でレア感が高い商品です。実際の電車の端材から生まれたメガネということで、メインターゲットは“鉄道ファン”としていましたが、ネット上のどこに広告を出せば鉄道ファンに的確なリーチができるのか、当初は見当がつきませんでした。男性が多いのでは……というイメージは描かれていたものの、それだけではユーザー層が広すぎます。一方で鉄道ファン向けサイトに出稿しただけでは、リーチの総量が足りないのではないかという懸念もありました。

 こうした課題を解決するため、ターゲットユーザーと彼らのネット上での行動を、データから明らかにしていきます。まず、ヴァリューズが定期的に実施しているアンケート調査結果から「鉄道」に興味関心が高いユーザーを抽出。そのユーザー群のWeb閲覧履歴データから機械学習を用いて「鉄道ファンにリーチしやすい媒体」を選定し、広告配信することにしました。ヴァリューズの行動ログパネル「eMark+」では、ユーザーへの意識調査と実際のWeb行動ログの両方をクロスして分析することができる、という利点があります。

 「鉄道ファン」をデモグラフィックデータから紐解くと、アンケート回答者で『鉄道』に興味のあるユーザーの属性は下図のようになり、「男性」「40代」がメインユーザー層であることがわかりました

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さらに、機械学習(潜在トピックモデル)を用いて広告配信媒体を選定していきます。機械学習により、人だけでは想起できない潜在的な関連ジャンルの媒体も選定できるメリットがあります。また、訪問者数が比較的少ないサイトやメディアも抽出でき、配信面の拡大にも有効です。

 

コンバージョン数が前月比で約2.3倍に改善

 実際に、「鉄道」興味関心層のWeb閲覧ログデータからトピックを抽出しクラスタリングすると、鉄道会社のサイトはもちろん、地方新聞系メディア、食べログなどのグルメ系メディア、じゃらんnetなど旅行系メディア、日経新聞などの大手新聞メディア、ヨドバシカメラなど家電通販サイトなどが特徴的な閲覧サイトとして上位にあがってきました。遠方に出かけて好きな鉄道の撮影をしたり、現地でグルメを楽しむなど、ユーザーのライフスタイルが垣間見えます。

 コーポレートサイトなど広告配信枠のないサイトもあるため、リストアップしたすべてのサイトに配信できるわけではありませんが、対象サイトを数千単位で抽出し優先的にディスプレイ広告を配信。デモグラフィックデータから把握したユーザーのオーディエンス条件も掛け合わせ、ターゲティング精度を高めました。配信結果では、ディスプレイ広告からのコンバージョン数が前月比で約2.3倍に改善。購入CPAでも目標をクリアすることができました

 

データからユーザーの行動特徴を明らかにし、ペルソナを描く

 最後に、今後のユーザーデータ活用の拡張について考えてみたいと思います。自社が複数ブランドを保有していたり、商品によりターゲット層が異なる場合、それぞれのユーザー像や検討プロセスを理解することは、マーケターにとって非常に重要でありながら、時間も労力もかかる仕事です。各担当者の思い込みや推測だけでディスカッションを始めると組織内の意見がなかなかすり合わず、共通認識としてペルソナを描くことが難しくなってきます。そのような時、実際のユーザーの行動ログは、消費者の代弁者として様々な示唆とエビデンスをもたらしてくれます。

 データドリブンなユーザーリサーチは、広告のターゲティング手法に活かすだけでなく、ユーザーの検討行動を可視化するカスタマージャーニーの作成や、クリエイティブ、コンテンツ企画、商品開発等、ネット企業のみならず、メーカーや金融機関など様々な企業のマーケティング部門で活用され始めています。今後、さらに各種データとの統合が進み、よりターゲットユーザーを多面的に捉えることができるようになるでしょう。ユーザーデータ活用の進化は続いています。

 

考察

本記事を要約すると、web行動データを用いてより具体的なペルソナ設計をするという内容。少々文字数の多い記事であったが、とても勉強になる記事だと思ったので取り上げた。以下、面白いと思ったポイント2点あげていく。

1.驚異のCVR前月比2.3倍

ターゲティングの精度を高め、より本質的な広告戦略をとることで2倍以上の成果を出すことができるとは。まさにweb広告の可能性を垣間見た気分になった。

ここで注目すべきはペルソナの設計方法だとおもう。

JINSのプロモーションでは、設計を社員間のイメージではなく、「ユーザーのweb行動データ」に基づいて行っている。ここにペルソナ設計の重要性を思い知った。

以前ペルソナ設計の課題に取り組んだが、私が参考にしたデータはネット上の口コミであり、言わば「ネット情報を基にした私の主観」で設計した。

これでは例えプロモーションを行ったとしても、大した成果を上げられなかったであろう。webマーティングの核心は「分析」であることがよく分かった。

 

2.メガネという商品で成果を上げる

今回の商材がメガネという「耐久消費財」である点にも注目したい。

耐久消費財といえば「原則として想定耐用年数が1年以上で比較的購入価格が高いもの」と定義され、もちろん消費財よりもCVまで繋げる難易度が高い商品だと思う。

そのメガネという商材でもターゲットを絞り込んでプロモーションすることで2倍以上の成果を上げられたことも驚いた。

これは本当にこれからのビジネスは、どんな企業にも優秀なwebマーケターが必要になってくると実感した。自分も「普通のwebマーケター」と呼ばれる将来を迎えないように頑張ろうと思った。